水鶏坂
「水鶏坂」については、地名碑の裏面に「野の末に清き沼辺にいつの日か水鶏のたたく声ぞ聴かまし。祈って名づく。」と短歌を添えた由来が刻まれています。
水鶏坂は、公方様の森の沿った坂道です。坂下には御所沼を見晴らすように大榎が大きく枝を張り、春先には「御所の梅林」の梅の香が漂い、坂を上がりきると、茅葺屋根の堂々とした中山家住宅が迎えてくれます。
風景学の提唱者である中村良夫東工大名誉教授に尋ねると、渡良瀬川の土手際の湿地では水鶏が生息しているという。ならば、水鶏の声を御所沼でも聴いてみたいと期待を込めたという。また、徒然草の「水鶏の叩くなど、心細からぬかは」に思うところあり、御所沼でも下る坂道を水鶏坂と名付け、歌を添えたとのことです。
中村教授はモダンな東京青山生まれで、戦中戦後、田舎町の古河に疎開し10年間を過ごし、御所沼は少年期の記憶の中にあったと言う。碑に刻まれた歌は、水鶏の鳴き声に不安を覚えた古人の心情に共感した疎開者の郷愁の歌なのかもしれません。
古人が水鶏の鳴き声を「水鶏たたく」と形容してきた水鶏は、夕方から夜に「クォンクォンクォン・・・」と鳴き続けるという。夜の訪問者の水鶏の鳴き声を御所沼の湖畔で何に聞こえるか聴いてみたいみたいものです。